- 前工程の製版はアナログからデジタルへ変化を遂げましたが、印刷工程は大きく変わっていません。もちろん、印刷機械の性能の変化はありました。印刷機の回転速度などは昔と比べたら驚くほど速くなりました。
しかし、こうして印刷機やその周辺の前工程や後工程の機能は変化していますが、オフセット印刷の手法自体は、インキローラーから版、版からブラン、ブランから紙へというやり方が変わることがありません。これが変わってしまったら、オフセットではないんです。
ここが、デジタルの時代にも変わることは絶対にありえないと言っています。オフセット印刷機とデジタル印刷機の境界です。 - 業務内容へ
- オフセット印刷機は、「版」を機械にセットすれば自動的に美しい印刷物が出てくるわけではありません。使用する紙は、1枚として同じものはありません。繊維がランダムに絡まって紙は出来ているので、僅かにインキの付き具合が異なります。
また、冬に作られた紙と夏に作られた紙では、湿度の関係で紙の膨らみが違います。もちろん、保管の時にも気温や湿度を気にしながら扱わなくてはいけません。これは、インキにも言えることで、夏の暑い日にはインキが柔らかくなる一方で、寒い冬は固くなるんです。最近では、季節に合わせた専用インキもありますが、インキ倉庫は25℃に管理しています。毎日同じ湿度、同じ気温なんてことはないですから、こうしたら良いんじゃないか、やってみよう!と工夫する日々です。
30年前から今日まで、いろいろなことに挑戦してきました。美しい印刷物をつくるためには、水と油の反発の原理を利用して、版にインキを綺麗に乗せる必要があります。そのためには、版から不要なインキをはじく「湿し水」の温度やpH値の管理が必要です。大きな氷を買ってきて水を冷やしてみたり、ジョウロを使って水を継ぎ足してみたり……、そうして生まれたのが「常温ワンウェイシステム」です。
印刷直後は、インキの乾きが悪く、紙をたくさん重ねていたら紙の自重で裏移りしてしまっていました。1万枚積んでも裏移りしない「完全棒積み」も「挑戦してみよう!」という声掛けから始まりました。 - 常温ワンウェイシステムとは
- 入社したての頃は、繁忙期ごとに枚葉機と輪転機を行き来していました。それぞれ機械が何台かあり、機械毎に担当を転々としていたのですが、そこで分かったことがありました。
機械も、ずっと使っている人のクセが付くんですよ。他の人のMT車を運転すると、クラッチの繋がる場所が違うように、または同じサイズの靴であっても、他の人が履いている靴を履くとその人のカタが残っているように。半年前に担当していた機械に戻った時には別物に思えたりする。皆、オリジナリティがあふれていましたね。自分好みに味付けができて、好きでした。
今の機械は、性能が上がった分、昔ほどカスタマイズできる所が減りましたね。とはいえ、やっぱりクセが付くんです。良い機械になるのも、悪い機械になるのも、機械を動かす人次第です。
- 「努力は天才に勝る!」、ずーっと母親に言われてきて、気にも留めてなかったけれど、失敗した時などに、「あぁ、もっとちゃんとやっときゃ良かったなぁ」と、この言葉を思いだします。
1日の終わりに満足できた日は、ほとんどなく、「今日も、あぁすれば良かったな、こうすれば良かったな」と反省しながら1日を終えます。
色合わせが上手くいかなくて、ヤレ紙(捨てなくてはいけない紙)を出してしまった時は、籠の中に入ったあの子らを見て、「ごめんよ。かわいそうに。もっと、“サイン”に気付いていれば、捨てずに済んだのに。世に出て行けたのに……」と思うのです。
機械のサインも機械を動かしてくれている人のサインにも、気付いてあげられていたら、と。これからも、美しいものを追求する努力を続けます。
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趣味は、映画鑑賞、ウィンドウショッピング、市場巡り。