浮世絵の世界
「富士」の人気連載 浮世絵シリーズをライブラリー化しました
「カメラ」という新技術が登場しても、「絵画」という先行する芸術はなくなることはありませんでした。20世紀の現代美術の発展が示すように、絵画はむしろ新たな進化を遂げたように見えます。
この現代美術の原点にあたる印象派・ポスト印象派の画家たちに大きなインパクトを与えたのが、北斎や広重の浮世絵でした。ここには、デジタル時代に紙メディアがどう生き残り、どんな未来を作っていくのかのヒントがあるように思えます。
19世紀の前半に、錦絵といわれたカラー印刷物を庶民が楽しんでいたというのも、よく考えるとすごいことです。欧米ではそういうことはありませんでした。日本のカラーオフセット印刷は、西欧のテクノロジーのたんなる輸入品ではなく、江戸時代の錦絵の技術が融合することで、独自の進歩を遂げてきました。
浮世絵を読み解くことは、印刷の過去に学び、今を考え、未来を創ることにつながると考えています。何よりも、浮世絵も印刷(版画)も、こんなに楽しくてわくわくするものはありません。この楽しさを皆さんとシェアできましたなら幸いです。
北齋の代表作「神奈川沖浪裏』(かながわおきなみうら)」は「Great Wave」の愛称で世界中のアーティストたちからリスペクトされています。
浮世絵を代表とする日本芸術は、19世紀後半のフランスを中心に、「ジャポニスム」といわれる一大ムーブメントを起こしました。北齋の『冨嶽三十六景』と『北齋漫画』が、モネ、ゴッホ、ゴーギャンなど印象派・ポスト印象派の画家たちに与えた影響ははかり知れないものがあります。
北斎や広重を敬愛してやまなかったフィンセント・ファン・ゴッホの手紙を手がかりにして、北斎の『冨嶽三十六景』の世界を読み解いていきます。
●北斎 遙かなる青 ーーゴッホとともに《冨嶽三十六景》の世界を旅する(上)
初出:『富士』165号(2014年6月)
北斎「神奈川沖浪裏』
●北斎 遙かなる青 ーーゴッホとともに《冨嶽三十六景》の世界を旅する(下)
初出:『富士』166号(2014年11月)
「動の北斎」「静の広重」といわれます。北斎の強く激しい画風に対して、広重はあくまでも優しく物静かです。『東海道五十三次』『近江八景』は、「風景の抒情詩人」広重の代表作といえるでしょう。
広重以前にも、東海道を描いた浮世絵は多数存在しました。しかし四季の風情を各駅に巧みに配した造形感覚は、他に例を見ません。同じ雪景でも、朝(亀山)と夜(蒲原)の描き分けなど、観る者を飽きさせないサービス精神にあふれています。
作品の随所にカメオ出演している『東海道中膝栗毛』の弥次さん喜多さんを探すのも、『東海道五十三次』を観る楽しみです。
広重は、花鳥画・静物画にも優れた作品を残しました。このライブラリーでは、『魚づくし』とよばれる魚貝画シリーズを紹介しています。
●弥次さん喜多さんとゆく 広重の東海道五十三次(1) 日本橋〜由比
初出:富士170号(2016年2月)
日本橋──朝の景
●弥次さん喜多さんとゆく 広重の東海道五十三次(2) 興津〜浜松
初出:富士171号(2016年8月)
浜松──冬枯ノ図
●弥次さん喜多さんとゆく 広重の東海道五十三次(3) 舞阪〜赤坂
初出:富士172号(2016年8月)
御油──旅人留女
●弥次さん喜多さんとゆく 広重の東海道五十三次(4) 藤川〜四日市
初出:富士173号(2017年3月)
岡崎──矢矧之橋 やはぎのはし
●弥次さん喜多さんとゆく 広重の東海道五十三次(5) 石薬師〜京都
初出:富士174号(2017年6月)
庄野──白雨
●静かなる広重──近江八景の世界
初出:富士167号(2015年2月)
石山秋月
●広重の魚づくし 江戸の浮世絵水族館
初出:富士168号(2015年7月)
鰹に桜(カツオ)
役者絵の大首絵を美人画に採用して、遊廓の花魁とともに市井の町娘たちも生き生きと描き出した喜多川歌麿。わずか10か月の短い期間に、145点あまりの浮世絵を発表し、忽然と絵筆を絶って姿を消した謎の絵師・東洲斎写楽。
浮世絵は、「写真機」という新たなテクノロジーの出現で、存在理由を問われていた西欧の若い画家たちに、大きなインパクトを与えました。浮世(現世)に生きる人間の「ありのまま」を大胆に描き出そうとする自由な精神でしょう。
●歌麿と写楽 「ありのまま」を描く
初出:富士169号(2015年12月)
ポツピンを吹く女(歌麿)
二世大谷鬼次(写楽)