富士精版カレンダー 椿・薬用草木
CATEGORY:椿・薬用草木
2018年『薬用草木』カレンダー解説 〜果実がきれいな薬用草木〜
高麗人参、薬用人参、朝鮮人参、これらはいずれも同じものをさしている。地下部が有名な滋養強壮の生薬(しょうやく)で、独特のにおいがあって味ははじめ甘く後に苦い。効果は非常にあらたかで、中国、韓国には愛好者が多い。江戸時代に徳川吉宗が栽培を奨励して以来輸出産品で、日本産は高品質であるとして人気が高いが、近年は栽培農家の高齢化が進み、産出量は少量になってしまった。
Panax ginseng C.A.Meyer
家がダイダイ(代々)繁栄しますようにという願いを込めて鏡餅の上に載せるものと言われる。果皮と小さい未熟果実を健胃作用が期待される生薬(橙皮[トウヒ]・枳実[キジツ])にする。
写真の実の、いわゆるおしりの部分がほんのり緑色であるが、これはいったん橙色になった果実がまた緑色に色づき始めている様子である。 これを若返りと捉えておめでたい飾り付けにしたとも考えられるという。
Citrus aurantium Linné var. daidai Makino
龍の髭(ひげ)ともよばれる玄関先や店先の植え込みにある植物である。冬期にみられる真っ青な実が美しく、また踏まれても枯れない強靭さが好まれてたくさんの園芸品種が開発されている。よく似た植物にヤブランがあり、こちらは花の美しさで園芸植物としての地位を獲得している。
根の膨大部(長い根の途中が膨らんでできるこぶのような組織)を麦門冬という生薬にする。咳止めの効果のある処方に配合される。
Ophiopogon japonicus Ker-Gawler
ボスウェリアはもともとアフリカとアラビア半島の一部のみに生育していた、寒さと多湿に極端に弱い植物で、一般にはほとんどお目にかかれない植物である。
この植物の幹を傷つけた時に浸出する乳液が固まったものが乳香(にゅうこう)である。キリスト教の聖書にも登場する乳香は薫香料として古くから中東地域で珍重され、やがて香料として世界中に広まった。日本で花が咲くのは珍しく、果実が得られるのはもっと珍しい、その果実の写真である。
Boswellia carteri Birdwood
チョコレートの原料となる果実である。しかし同時にこのカカオの実から得られるカカオ脂は、ちょうど37度で溶け始めるという性質を持っており、かつては座薬の基材として重宝された。
木の幹から直につく小さな目立たない花、それに引き続いてつく実は、つき方があまりにユニークすぎて、一度見ると忘れられない形である。
Theobroma cacao Linné
少しクリームがかった橙色の小さめのまん丸な実が、広がった木の枝のあちこちにパラパラつく様子は、たくさんの満月が空いっぱいに撒き散らされているように見える。
実の中の堅い核のそのまた中にある、いわゆるアーモンドの可食部に相当する部分を杏仁[キョウニン]といい、苦い味がして咳止めの効果がある。
苦味が少ないものは甜杏仁[テンキョウニン]と称してアンニンドウフ(杏仁豆腐)の風味づけに利用されている。
Prunus armeniaca Linné var. ansu Maximowicz
ゴボウはキクの仲間である。小さな花がたくさん集まって塊となり一つの花に見える。
タネが熟すと一つ一つに綿毛がついて飛んで行くようになるが、この綿毛が曲者(くせもの)で、どこにでも入り込む厄介者である。
タネは牛蒡子[ゴボウシ]として発汗・利尿の効果を期待して漢方処方に配合される。根や若い葉茎はもちろん食用にされる。
Arctium lappa Linné
果実の中の堅い核のさらに中身(実はこれが種子)を桃仁[トウニン]という生薬(しょうやく)にする。桃仁は漢方で駆瘀血[クオケツ]と呼ばれる働きがあり、血[ケツ]の巡りが滞っているのを解消する働きがあると言われている。食用、観賞用など非常に多くの品種があるが、アンズ、ウメ、スモモなどとこの核の様子が大きく異なっており、モモの核はより扁平で深い溝があるのが特徴である。
またモモの果実には古来から霊力が宿ると考えられ、儀式や悪魔祓いなどに盛んに利用されてきた歴史がある。
Prunus persica Batsch var. platycarpa L.H.Bailey
花は観賞用に、肥大した地下茎はレンコンとして食用にするが、生薬にするのはいわゆるタネで、真ん中の胚が取り除かれて穴があいたようになっている場合もある。
生薬名を蓮肉[レンニク]といい、滋養強壮や鎮静の活性があるとされる。開花後に肥大する漏斗型の部分は植物学的には花床(かしょう)といい、タネはこれに埋没したような形で熟すが、その様子が蜂の巣のように見えることから、古くはハチスとよばれていたものがハスになったと考えられている。
Nelumbo nucifera Greater
ミカンの仲間である。熟した果実の果皮を生薬にするが、これをよく観察すると、ミカンの皮と同様に油を含む油室がたくさんあるのがくぼみとなって見える。
味は麻痺性で辛く、芳香性健胃薬として伝統薬等に配合される他、香辛料としても利用される。 近年、腸の外科手術後に腸の運動再開を促進する目的で処方されることが多くなった漢方処方の大建中湯[ダイケンチュウトウ]にも、また新年を祝う屠蘇散[トソサン]にも配合される生薬である。
Zanthoxylum piperitum De Candolle
ナツメは大昔からヒトが食用・薬用に品種改良を繰り返してきた植物で、現在も多様なものが利用されている。 果実を生薬(しょうやく)の大棗[タイソウ]にするナツメは枝に棘(とげ)がなく、タネを酸棗仁[サンソウニントウ]という生薬にするナツメは枝に鋭い棘がたくさんある種類である。
大棗には抗アレルギーや生理不順の改善などの効果が期待され、酸棗仁は不眠症や神経症をターゲットとした漢方処方に配合される。
Zizyphus jujuba Miller var. inermis Rehder
早春のまだ寒さが十分に残る頃に黄色い小さな花を枝いっぱいにつける木で、生け花の花材としても有名だが、薬用には熟した果実を使う。滋養強壮の効果がある。
透明感のある赤い楕円形の実は少し甘酸っぱくてえぐみがある味がするが、晩秋に葉が全部落ちても落ちずに残る。
なぜか鳥たちにはあまり人気がなく、春先に新芽が出るまで枝についていることが多い。
Cornus officinalis Siebold et Zuccarini
花の香りが良いのでしばしば街路樹としても利用される木本だが、生薬にするのは果実である。食品に黄色い色をつけるのにも利用され、正月のおせち料理に彩りを添えるきんとんや栗の黄色がそれである。生薬名を山梔子[サンシシ]といい、胆汁(たんじゅう)の流れをよくする効果があるとされる。
野生のクチナシの花はひとえだが園芸品種には大輪八重咲きが喜ばれるものの、八重咲きの花には実がつかない。
Gardenia jasminoides Ellis
■解説:伊藤 美千穂先生(京都大学大学院薬学研究科 准教授)
■撮影協力:武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園
■写真:近江 哲平[富士精版印刷株式会社 撮影スタジオ]
■デザイン:河野 公広[富士精版印刷株式会社 東京支店]
■カラーマネージメント:滝口 章人[富士精版印刷株式会社 プリプレス部]