富士精版カレンダー 椿・薬用草木
CATEGORY:椿・薬用草木
2017年『薬用草木』カレンダー解説 〜薬毒同源・毒にも薬にもなる植物たち〜
最近は鉢植えのジギタリスを園芸店でよく見かけるようになり、園芸植物としての市民権を得つつあるようであるが、もともとヨーロッパで伝統的に浮腫に対して使われてきた薬草である。含まれる強心配糖体成分であるジゴキシン等は近代医薬品として製剤化され、うっ血性心不全の薬として現在でも汎用されているものである。
Digitalis purpurea Linné
お正月に飾る鉢物としておなじみだが、野生状態で開花するのは節分を過ぎてからである。春の雪の下で開花している場合もあり、山菜と間違われることがある。誤食すると含まれる強心配糖体の作用で中毒をおこす。
強心配糖体は医薬品として使われる成分もあるが、フクジュソウに含まれる成分は薬用と毒性が現れる濃度との差が小さく、現在は医薬品としては使われていない。
Adonis amurensis Regel & Radde
ヒガンバナと同じアルカロイド成分を含んでおり、地上部、地下部いずれも食べると中毒をおこす。
しかし、葉の形が似ている上に、根元部分はニラやネギのように薄い膜が、袴のように付いているせいもあってか、ニラとの誤食が絶えない。
ニラでないことは、においで確認できる。年末から節分過ぎまでの野外に花が少ない時期に華やかな花が楽しめる人気の園芸植物でもある。
Narcissus tazetta Linné
細辛(サイシン)という局方生薬の基原植物である。
生薬として使うのは根だけで、地上部はアリストロキア酸という、腎障害をおこすと考えられる成分が含まれているため日本では用いない。
花は写真の通り色も形も地味な上に地面すれすれに咲くためほとんど目立たず、ナメクジなどが花粉を媒介していると考えられている。
Asiasarum sieboldii F. Maekawa
仏前に供えられる花木で全草に神経毒性のある化合物を含む。星型の果実には芳香があるが、毒性も高い。近縁の植物に熱帯性のトウシキミがあり、これの果実はシキミとは異なる甘い芳香があり、生薬の大茴香(ダイウイキョウ=八角=スターアニス)として使われる。
シキミは日本の野山では動物が食べないのでたくさん生えているが、口にしないよう気を付けたい。
Illicium anisatum Gaertner
地下部を生薬ロートコンとして用いるが、多くはそれから抽出したロートエキスの形で胃腸薬に配合される。
含まれるトロパンアルカロイド類が副交感神経遮断作用を表し、鎮痛・鎮痙の効果がある。しかし、安全に効果が期待される濃度は限られているので素人には毒である。
日本で普通に野生する植物で、早春に山菜フキノトウとの誤食で中毒する事故が多い植物である。
Scopolia japonica Maximowicz
ヨーロッパに自生する植物で、日本のハシリドコロ(5月を参照)のヨーロッパ版という解説がわかり易いかもしれない。
ベラドンナエキスを目に入れると、その副交感神経遮断作用で瞳孔が散大するが、中世ヨーロッパの貴婦人たちは瞳が大きい方が美人に見えることを知った後、ベラドンナの果汁を目に入れて舞踏会等に臨んでいたということである。
Atropa belladonna Linné
田畑の畦や空き地にしばしば生えている植物である。花は華岡青洲が世界初の全身麻酔による手術を行った際に使われた。
麻酔薬「麻仏散」の配合生薬「曼荼羅花(マンダラゲ)」である。全草に副交感神経に強く作用するトロパンアルカロイドを含み有毒。
花は夕方暗くなる頃に咲き始め、甘い芳香があり、夕闇の中でまずにおいで気づかされる植物である。
Datura metel Linné
公園や線路際によく植栽されている街路樹のひとつ。盛夏に開花する。身近な花だが全草にアルカロイドを含んでおり、有毒である。
常緑で冬季にも濃い緑の葉をたっぷりつけており、株立ちになって背の低い位置にも茂っていることから、子どもが誤って口にしたり、動物に葉を与えたりして事故に至ることがある。
Nerium oleander Linné
名前の通り秋のお彼岸の頃に田畑の周りを赤く縁取るが、花茎だけが先に出て葉は花が終わってから出現する。緑葉のまま冬を越し、汗ばむ季節に枯れる。
真夏に充実した地下部があるので、飢饉の時には食用にもしたらしいが、でんぷんと同時にアルカロイドを含むので食用には適さない。
かつてはその鱗茎を石蒜(セキサン)と称し、去痰・催吐作用を期待する生薬として利用された。
Lycoris radiata Miquel
妖しいほどに大きくて華やかな花穂である。最近は切り花としても売られているようであるが、全草にアルカロイドを含み、特に地下部に多い。
その地下部を高圧蒸気処理等の方法で減毒処理したものが生薬「附子(ブシ)」で、鎮痛、強心等の作用を期待して漢方処方に配合される。
処理していないものは猛毒である。
Aconitum japonicum Thunberg
「イヌ」という接頭辞が付く植物名は「使いものにならない」という意味が含まれることが多いが、本植物もご多分にもれず、サフランに似た形の花が咲くものの、雌蕊をサフランのように使うことは出来ない。
利用するのは地下部の鱗茎でコルヒチンを含む。コルヒチンは痛風の初期疼痛の特効薬として現在でも臨床で使われている医薬品である。
Colchicum autumnale Linné
熱帯アフリカ原産の蔓性木本植物で日本国内では温室で育てる。現地では種子から作るエキスを狩猟のための矢毒として利用していた。
主な毒成分は強心配糖体のストロファンチンで、抽出精製されうっ血性心不全の薬として臨床で使われている。
毒性発現のメカニズムを解き明かし、活性を制御することで薬としたのである。薬毒同源の典型例のひとつであろう。
Strophanthus gratus (Wallich & Hooker) Baillon
■解説:伊藤 美千穂先生(京都大学大学院薬学研究科 准教授)
■撮影協力:武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園
■写真:近江 哲平[富士精版印刷株式会社]
■デザイン:河野 公広[富士精版印刷株式会社 東京支店]