富士精版カレンダー 椿・薬用草木
CATEGORY:椿・薬用草木
2015年『薬用草木』カレンダー解説 〜薬食同源〜
肝臓によい、二日酔いの予防に良い、などのふれこみで今やよく知られるようになった薬用植物。利胆作用があるとされるが、日本で汎用される煎じの漢方処方には生薬ウコン(鬱金)が含まれているものは無く、火傷や外傷の化膿防止、痔疾、熱をもった皮膚トラブルなどに使われる“中黄膏”という外用薬に配合される。香辛料としてはターメリックと呼ばれ、カレー粉に含まれているほか、たくあんの色づけにも使われる。花が華やかで長持ちするので、観賞用の品種も多くある。
学名:Curcuma longa L.(ショウガ科)
熱帯アジア原産の木で蕾を生薬チョウジ(丁子)として使う。日本の薬用植物園では温室内でみることができる。 写真の花序(花の配列)では白っぽい方が蕾で、外側が赤いものは花後の若い果実である。精油には局所麻酔作用があり、歯科治療ではおなじみのにおいである。
香辛料としてはクローブと称し、ハンバーグやクッキーの香り付けに欠かせないほか、タバコにもこの香りが添加された製品がある。
Syzygium aromaticum(L.) Merr. & L.M.Perry (フトモモ科)
特有の鼻にツンとくる辛みは、ワサビをすりおろす際にシニグリンという化合物が酵素によって分解され、その結果生成したアリルイソチオシアネートという揮発性の化合物によるもの。この化合物には抗菌作用がある。
植物としては、チューブわさびの主原料となる西洋わさび(ホースラディッシュ)とともにダイコンやハクサイと同じ仲間である。
Eutrema japonica (Miq.) Koidz.(アブラナ科)
ひとつの花芽に一つずつ花が咲くボケに近縁の植物で、中国原産。秋に熟す香り高い果実をシロップ付けなどにして咳止めに用いるが、この果実は無毛である。
他方、よく似た植物にマルメロがあり、こちらは中央アジア原産で果実は綿毛に覆われている。
家具や仏壇などの唐木細工に珍重される“カリン”はマメ科の別な植物である。
Chaenomeles sinensis (Thouin) Koehne (バラ科)
果実を楽しむもの、花を賞でるもの、ともに多くの品種があり、写真は花色が白色のもの。薬用にするのは果実の中にある堅い核(いわゆるタネ、植物学的には内果皮)の、さらに中にあるアーモンドのような形の種子で、生薬名をトウニン(桃仁)と称し、漢方では駆瘀血薬(くおけつやく)とする。
モモの実やタネは古来より邪気を祓う効果があると信じられていたらしく、呪術的に用いられた歴史があるそうである。
Prunus percica (L.) Batsch(バラ科)
日本の山野に普通にみられるが、果実の時期以外は気づかれない場合が多い。雌雄異花で写真では左側の大きめのものが雌花であり、受粉すると紫色の雌しべのひとつひとつが太って大きくなり果実となる。つる性の茎を生薬モクツウ(木通)として利用し、利尿作用や婦人科疾患に対する効果を期待して漢方処方に配合される。
茎の断面はスポークのある自転車の車輪のようである。
Akebia quinata(Thunb. ex Houtt.) Decne.(アケビ科)
葉をローリエ、ベイリーフなどと称して香辛料に、また生薬ゲッケイヨウ(月桂葉)として芳香性健胃薬に配合する。 雌雄異株で雌の木には果実がつくが、この果実も生薬ゲッケイジツ(月桂実)として健胃薬やリウマチの塗布薬に利用される。
スポーツ競技の優勝者などに贈られる月桂冠は、この木の枝葉で作られたものである。
Laurus nobilis L.(クスノキ科)
河原に生えていて、白やこげ茶色の堅い実(種子)がつき、それを集めて首飾りにして遊んだのはジュズダマ。
ハトムギはジュズダマと同種だが、種子の殻はジュズダマほど堅くない。薬用にするのはこの種子の殻(種皮)を除いたものでヨクイニン(薏苡仁)と称し、鎮痛・消炎・利尿作用を期待して漢方処方に配合されるほか、イボとりに効果があるとされている。
Coix lacryma-jobi L. var. mayuen (Rom.Caill.) Stapf(イネ科)
熱帯アフリカ起源の最古の油料植物といわれており、日本では奈良時代に既に栽培されていたらしい。
食用の場合と同様、薬用にも種子を使い、漢方処方に配合される場合には、解毒作用や滋養強壮の効果を期待する。
種子を搾油したごま油は香りのよい食用油だが、精製したごま油は無色に近い透明でにおいは薄く、日本薬局方収載の医薬品として利用されており、各種の軟膏に配合される。
Sesamum indicum L.(ゴマ科)
いわゆるミントの仲間にはたくさん種類があって、香りと外観がそれぞれ異なっている。
日本で生薬ハッカ(薄荷)として使うのは、写真のように葉腋に花を輸生する和種ハッカと呼ばれるもので、精油はメントール含量が特に高い。漢方では発汗、解熱、健胃作用を期待して各種の処方に配合され、より新鮮な生薬の方がよいものであるとされる。
香料として使う天然メントールの原料植物も本種である。
Mentha arvensis L. var. piperascens Malinv.(シソ科)
薬用にするのは種子で生薬トウガシ(冬瓜子)と称し、利尿作用を期待して漢方処方に配合される。利尿して身体の余分な水分を排泄することで浮腫(むくみ)がとれる。
スイカやウリに似ているがこれらとは異なる属に分類される植物である。
Benincasa hispida (Thunb.) Cogn.(ウリ科)
紫色の小さな花がかわいい、ナスの仲間の低木である。 果実は生薬クコシ(枸杞子)として強壮作用を、根皮は生薬ジコッピ(地骨皮)として強壮、解熱作用を期待して漢方処方に配合される。
クコシは干しブドウのような大きさと形で味が少し甘く、香りは強くないが朱色が奇麗なので、中華料理や飲料にもしばしば利用される。
Lycium chinense Mill.(ナス科)
いわゆる香辛料のタカノツメである。薬用としては皮膚刺激作用があり、神経痛、筋肉痛の痛みの緩和やしもやけに対する血行促進作用を期待して、パップ剤や軟膏などの外用薬に配合される。香辛料としての利用はタイ料理や韓国料理で有名だが、原産地は中央・南アメリカ大陸である。
辛み成分はカプサイシンという化合物で、近年はこれが普通のトウガラシの数百倍も含まれる激辛品種が開発されている。
Capsicum annuum L.(ナス科)
■解説:伊藤 美千穂先生(京都大学大学院薬学研究科 准教授)
■撮影協力:武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園
■写真:近江 哲平[富士精版印刷株式会社]
■デザイン:河野 公広[富士精版印刷株式会社 東京支店]