ブックタイトル国際印刷大学校研究報告 第19巻
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国際印刷大学校研究報告 第19巻
5『広告表示と価値創造』■本文は、日本の直近の工業統計などを基に印刷業の経営環境、実体、課題を整理する。はじめに自然環境と資源は、生活、食糧、種保存の源泉であり、絶えず変動している。身体と5感覚器官は、環境の覚知、心理、感性の根幹であるが、有限である。感性はあらゆる認識、安全判断、集団形成および集団行動の基盤である。絶えず変動する環境、身体機能の有限は、得られる情報を束縛し、独自な意識、文化を創作させる一方、時に不安感を誘起、生存を脅かす場合もある。ヒト、モノおよび情報の移動の道具は身体・感覚器官の限界を補完する。情報媒体は情報交換の道具であり、環境変化へ素早く対応、不安感を解消する機能が求められる。この利用目的は個人のその時点・場の生活環境、期待感で異なる。例えば、生存競争環境では安全の確保、我欲・快楽の追求、存在感の演出、集団支配・覇権の争奪、農業経済環境では居住地、観察・狩猟・採取・生産・交換・保蔵の方法の探索、工業経済社会では貨幣経済価値物の創造、生産・販売・消費に必要な原材料・道具・製法・管理技術の入手、効率化と複雑多様である。生活環境、意識、好奇心、願望の不同および学習の試行錯誤は、情報などの移動の道具を発想させ、移動の律速、経路、範囲の制約条件や視野を変革させている。1 紙媒体―印刷業の誕生―木製彫刻版は7世紀の中国で考案され、絵・文字の紙への複写時間を短縮し、筆に替わって複写物量産の道具に供された。印刷物は書き言葉を共有する地域で2次元の静止視覚情報を移動させる媒体に利用された。印刷業は印刷機械を中核に複写作業の請負業として経営され、情報の流布、低価格化、種類・質量・視点の拡大に貢献した。欧州の印刷業は、需要の黎明期はその時代・地域の先端技術の流用、印刷機・器材の開発、出版・販売の業務の一体化で経営、競争し合った。日本の19世紀末の産業構造は、土地を中核とする農業社会であった。明治政府(1868~1912年)は強国を図るため欧米から海軍兵器と工業技術・機械を導入した。産業構造の農業から工業への転換は、大量生産消費・宣伝のため印刷物の需要を増やした。印刷業の1874年(明治7)の実質粗付加価値額成長率は、製造業の中で機械業に次いで高い(図1)。この理由は、政府が政権基盤を固めるため新法令を次々と公告しなければならない国内の政治的軍事的大混乱にあった。新法令の頻発、例えば、租税の物納から金納への改正(1873年)や徴兵制は、製造業の中で付加価値額が最小であった印刷業を急成長させた。同業の付加価値額の製造業に占める寄与率は1925年(大正14)に頂点4.5%まで達し、官報の需要が一段落した40年(昭和15)に3.05%へ下落した(図2)。寄与率が低下しても、付加価値絶対額は上昇した。この上昇は最大の需要者である製造業、特に機械業の付加価値絶対額の急増に負う。工業化は1940年の製造業全体の付加価値額平均値を25年の3.14倍した。製造業の伸び率の平均値は0.68以下の食品、繊維・衣服、窯業、雑製品、印刷・製本の消耗財群、および1.21以上の機械、製材・木製品、化学製品、金属・製品の生産財群に2極化された。若生彦治『広告表示と価値創造』An advertisement efficiency and robotization of today’s printing businessHikoji WAKOH