ブックタイトル国際印刷大学校研究報告 第18巻|富士精版印刷株式会社 FUJI SEIHAN PRINTING Co.,Ltd.
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国際印刷大学校研究報告 第18巻
19有機ELディスプレイの技術史概論(Ⅰ)黎明期■セン単結晶の両端にアントラセンのアニオンラジカルとカチンラジカルを含む溶液をそれぞれカソード、アノードとして用いて、電場を印加すると、単結晶からアントラセンのフォトルミネッセンスと同じ蛍光が得られることを示した。液体電極を介して有機薄膜にキャリアを注入し、アントラセンからの発光を取出したこのW.Helfrichらの発見が、本当の意味での有機ELの研究の始まりと言える。このように、有機ELはこれまで絶縁体と考えられた有機物に電界を印加することによって注入された正と負のキャリアが、有機分子上で再結合して励起子を生成し、その輻射失活によって発光するという非常に興味深い現象を利用したデバイスである。しかしながら、発光効率は概して必ずしも高くなかった。そのため、さまざまな方法で高輝度、高効率化が図られたが、1970年代から1980年代前半は有機薄膜を用いたキャリア注入型ELの模索が続いたが、実用化には程遠かった。2.3 有機ELディスプレイのブレークスルーこの有機ELの研究の漂った状態を破ったのは、1987年、Kodak社の研究員C.W.TangらがAppl.Phys.Lett.51,913(1987)に発表した論文、Organic electroluminescent diodes,で示した、100nmオーダーの有機超薄膜の二積層構造の有機EL素子である。彼らは、ITOガラス基板上にホール輸送層であるジアミン誘導体75nmと電子輸送層兼発光層であるTris(8-quinolinolate)aluminum60nm,MgAg電極を順次真空蒸着して素子を作製した。この素子にITO電極に対して順方向の電圧を印加すると、10V以下の低電圧で1,000cd/m2を超えて発光し、外部量子効率1%を超える高効率を示した。これにより、従来よりも低い電気エネルギーで大幅な輝度向上を達成し、これを機に、特に日本に於いて、低分子の有機ELディスプレイの実用化に火がつき、今日に至っている。まさに、この論文は有機ELディスプレイのブレークスルーになった。一方、高分子の有機ELディスプレイは、1990年、Cambridge大学のチームがポリフェニレンビニレンを使って発表した。(J.Burroughes,D.Bradley,R.Friend:Nature,347,539(1990))3. まとめ科学技術における、ブレークスルーは、それをもたらした先駆的研究がある。しかし、先駆的研究をなした研究者・技術者は後のブレークスルーを予測した訳ではない。科学技術の時代の流れを結びつけるのは、技術史家の務めである。本稿で述べた有機ELディスプレイの技術史は、今まで定説があるわけではなく、著者の言わば主観に基ずくものであり、色々と誤りが指摘されると思われます。特に、導電性有機物の発見が有機ELディスプレイの先駆的研究か、色々と議論があるところである。絶縁体と見なされた有機物に電気を流し、光るという現象を利用した有機ELディスプレイに於いて、直線的関係はないかもしれないが、技術史的には重要なステップと捉えることが出来る。有機ELディスプレイは、今だ発展途上であり、黎明期の技術史を顧みるのは、これからの研究開発を進めていく上で意味のあることと思われる。今後、有機ELディスプレイの実用化への研究者・技術者の足跡を探究していきたいと思います。最後に、本稿を作成するにあたって、色々な方のご教授、ご指導を賜った。さらに、多くの論文・文献を参考にさせて頂いたことに感謝します。図-1 C.W.Tang等が発表した有機ELの構造と有機材料