ブックタイトル国際印刷大学校研究報告 第15巻

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概要

国際印刷大学校研究報告 第15巻

『筑紫新聞』印刷文字と「諏訪神社・木彫文字」の同一性■できる。5)骨格・結構に差異が認められない場合は手作業による偶発的な近似、又は鋳造による複製と考えられ、判断を保留する。6)骨格・結構に差異が認められない場合が複数の組み合わせにおいて成立する時、偶発的近似と考えず、鋳造による複製と判断する。『筑紫新聞』第壱號に出現する全ての文字にID番号をつけ、分類・集計したところ、総数は3009個であった。このうち2825個(93.9%)を占める「本文文字」を分析対象として扱った。1字形あたりの出現個数は平仮名・変体仮名が12.77個と最多であったため、版式判定法を適用する最適な文字体系として平仮名・変体仮名を選定した。字形の照合作業はデジタルカメラで撮影して得たjpegデータをコンピューターに取り込み、画像処理ソフトAdobe Photoshopを用いて行った。字形の輪郭線を抽出して重ね合わせ、字画の位置および方向の、相違の有無によって字形の一致と不一致を判断した。字形の正確な一致を確認することは、微小な差異による分類を行うことと不可分であるため、照合作業は字形分類の作業となった。その結果、『筑紫新聞』第壱號に出現する平仮名・変体仮名は90字形に細分化され、そのうち66字形が版式判定法により鋳造活字と判断できた。残る24字形は判定に資するサンプル数が得られなかったため保留扱いとした。さらに、印刷面が良好な第2丁をサンプルとして選定し、同丁に出現する漢字について分析を行った。その結果「版式判定法」が適用可能な34字形のうち、32字形が鋳造活字と判断できた。残る2字形はサンプル数不足から保留扱いとした。以上の結果から、確実に鋳造活字と判断できる文字だけで、第2丁の本文文字の過半数(54.8%)を占め、その分布は版面の全域に及ぶことを示した。また、3個以上のサンプルが確保された字形は全て鋳造活字と判断できており、印刷状態が良好であれば、鋳造活字であることを立証できる文字はさらに多くなることを指摘し、第2丁は鋳造活字版で印刷されたと判断した。以上の判断に基づいて第2丁以外の丁を観察し、どの丁も第2丁との間に体裁の統一性が明瞭である点、鋳造活字と判断した文字は全ての丁に出現している点、特定の丁だけ異なる版式を用いたと想定することは不合理である点を指摘し、第2丁以外の丁も鋳造活字版印刷であると判断した。3.文字の出自の解明続いて『筑紫新聞』に使用された文字の出自を明らかにするため、同時代の活字史料との比較を行った。目視によると、使用された文字は当時主流をなした本木昌造系の活字であると推定できたため、同系列の活字史料との照合を行った。本木昌造は1869(明治2)年に上海のプロテスタント系印刷所(ミッション・プレス)の技術者ウイリアム・ギャンブルを通じて蝋型電胎法による活字製造技術を導入し、わが国の近代活字の量産化と普及に道を拓いた。本木昌造系活字の字形を正確に伝える史料として「諏訪神社・木彫文字」、および同系活字で印刷されたことが確実な和装本『新塾餘談・初編一?四』からサンプルを採取し、『筑紫新聞』の印刷文字と照合した。「諏訪神社・木彫文字」は、本木昌造が創業した「新町活版図2諏訪神社・木彫文字所」の職人・喜多璋太郎が1925(大正14)年に長崎の諏訪神社に奉納した総計3293本からなる木彫文字である。本木昌造系活字の種字とされ、同系活字の字25