富士精版カレンダー 椿・薬用草木
CATEGORY:椿・薬用草木
2016年『薬用草木』カレンダー解説 〜国内ではあまり見られない薬用植物〜
ダイオウはかなり大型の植物で、花茎が2m、葉の長さが1mを超えることもあるが、花は写真のように小さくて地味である。葉柄を砂糖漬けやジャムにするルバーブと近縁だが、薬用にする種の根茎には下剤の作用と駆瘀血作用があり、がっちりした体型で体力が充実した人向けの漢方処方にしばしば配合される。シンシュウダイオウは、夏の高温多湿に弱いダイオウを日本で栽培できるように育種したもので、現在でも医薬品原料用に日本で栽培されている。
Rheum coreanum Nakai × Rheum palmatum Linné (タデ科)
正月元旦の寒い庭で花が咲いているのを見ることができる。日本ではあまり薬用にはしないが、中国では咲き始めの花を収穫して生薬にする。
花は乾燥させても強い香りが残り、気を巡らせて鬱々とした気分を晴れやかにする効果があるという。
ロウバイは内側の花被片(花びら)が赤いものが一般的だが、写真は花被片が全部黄色く香りがより強い園芸品種でソシン(素心)ロウバイと呼ばれるものである。
Chimonanthus praecox (L.) Link (ロウバイ科)
野外を歩くにはまだ寒すぎる時期に開花するので、花は見たことがないが矢車状の果実なら知っているという方が多いかもしれない。
写真の2本の花茎のうち左は雄しべしかない雄性花、右は雄しべと雌しべが両方ある両性花をつけている。花弁のように見える一番外側の大きな白色花被は萼片で、 その内側の小さな花被が花弁である。根茎は漢方処方や昔ながらの家庭薬に配合されるが、ベルベリンを多量に含んでおり、濃く鮮やかな黄色である。
Coptis japonica Makino (キンポウゲ科)
塊茎に鎮痛作用が期待される中国原産の植物で、日本にはエゾエンゴサクなど近縁種がいくつか自生する。
早春の山歩きでは明るい日陰の道端に、写真のようなハイヒールのパンプスシューズを思わせる形の花を見つけるかもしれないが、本州ではそれは多くがムラサキケマンであろう。
ムラサキケマンや花色が黄色のキケマンは、近畿の有名ハイキングコース沿いにもたくさん生えるエンゴサクに近い仲間であるが、エンゴサクのような塊茎はつくらない。
Corydalis turtschaninovii Besser forma yanhusuo Y. H. Chou et C. C. Hsu (ケシ科)局 / Corydalis yanhusuo W.T.Wang (ケマンソウ科)
古来よりの観賞用花木でもあるが、根から芯を除いた根皮部を駆瘀血薬(クオケツヤク)として漢方処方に配合する。
駆瘀血薬とは、血の巡りが悪く滞った状態が原因で生じた身体の不調を治す生薬のことである。根には独特のスーッとした香りがあるが、最近の鑑賞用品種はシャクヤクの根にボタンの地上部を接ぎ木したものが多くなっている。シャクヤクの根にも同様の香りがあって薬用にするが、芯はない。
Paeonia suffruticosa Andrews (ボタン科)
植林されていない山の斜面を新緑の時期に眺めると、少し白っぽい大きな葉のホオノキが其処此処にあるのに気づく。ホオノキ(Magnolia hypoleuca Siebold et Zuccarini)は 日本固有の植物で、樹皮は生薬に、材は下駄や家具に、葉は食器や食品包装材にと余すところなく使われてきた。厚朴は鎮痛・鎮痙作用が期待される生薬で、鬱々とした気分やストレスが原因の身体の不調に対応する漢方処方にしばしば配合される。写真はホオノキと同様に厚朴の基原となる中国原産のオウバ(凹葉)ホオノキである。
Magnolia officinalis Rehder et Wilson var. biloba Rehder et Wilson (モクレン科)
鉢植えにすれば観賞用にできそうな可憐な植物で、根を補血・強壮薬とする。根は一見、小ぶりの白いサツマイモのようだが、成分にデンプンは少なく、マンニトールなどのいわゆるオリゴ糖が多く含まれると言われており、実際、切り口にヨウ素試薬をかけても反応は陰性である。
アカヤジオウよりカイケイジオウのほうがはるかに根が太くて大きく、生薬用栽培向きの品種であるといえる。ウイルスに弱いので維持栽培には少々工夫が必要である。
Rehmannia glutinosa Liboschitz (ゴマノハグサ科)
日当たりの良い草原に生える植物だが近年は絶滅危惧種に指定されるほどに激減し、野生品を見つけることはもはや非常に困難である。根を生薬に、また紫色の染料に用いる。
紫根には、抗菌・抗炎症・肉芽形成促進などの作用があり、華岡青洲が考案した紫雲膏に配合されている。
紫雲膏は薬学部の学生実習で作製することが多く、学生たちは実習中の火傷や切り傷を自作の紫雲膏で手当てするが、いずれも跡も残さず実に綺麗に治癒するのである。
Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zuccarini (ムラサキ科)
薬用のシソ科植物というと、シソやハッカ、またバジルやラベンダーなどのハーブ類が真っ先に思い浮かび、これらはいずれも精油を含んだ地上部を使うので、 根を使うシソ科植物、というとちょっと意外かもしれない。黄芩にはバイカリンというフラボノイドが乾燥重量あたり10%以上も含まれており、単一の二次代謝産物がこれほど多量に蓄積している例はほかに類をみない。消炎・解熱作用を期待して、漢方処方中ではしばしば柴胡と一緒に配合されている。
Scutellaria baicalensis Georgi (シソ科)
花や葉の容姿はハブソウ(生薬名:望江南;薬用部位は主に種子)によく似ているが、センナは湿度を極端に嫌うため、日本では育てるのが難しい植物である。
全草に下剤の作用があるアントラキノン類を含み、葉や果実を緩下薬とする。漢方薬として使うのではなく、単味で煎じるか、またはセンノシドなどの抽出用原料とされる。
茎以外のすべての部位は専ら医薬品として使用される成分本質とされており、健康食品やハーブティーの材料として使うことは禁じられている。
Cassia angustifolia Vahl (マメ科)局/ Senna angustifolia Batka (ジャケツイバラ科)
生薬としてそのまま煎じるのではなく、根の抽出物のシロップ剤が痰をでやすくする薬として使われている。北米原産で乾燥気味の草原地帯などに生え、日本で薬用にする種類は写真のとおり花も草丈も小さく地味な印象のものだが、北米には同属のものが60種ほどあり、大型の華麗な花をつける種もある。
日本では年間5〜6トン使用されるが、珍しくその100%が国産品で賄われている薬用植物である。
Polygala senega Linné (ヒメハギ科)
オケラやオオバナオケラとともに、根茎を朮(ジュツ)という生薬にする。朮はスーッとする香りが特徴的で健胃整腸剤として各種製剤に配合されるほか、抗菌・防虫作用があり、昔から燻した煙は蔵の消毒や風水害後の家屋や家財の消毒などに使われた。この揮発性成分は朮の表面に白い結晶となって析出するため、一見、生薬はカビが生えたように見えることが多い。京都八坂神社の大晦日の恒例行事「おけら参り」は朮にちなんだものである。
Atractylodes lancea De Candolle (キク科)
年末年始の人気のない薬用植物園で香り高く、でもひっそりと開花しているのがビワである。花は大きくはなく、茶色い産毛のような毛にびっしり覆われた萼に包まれているので、近寄らないと花であると認識しにくいかもしれない。奈良時代の文献にも登場するほど古くから日本にある植物で食用果実がお馴染みだが、薬用にするのは葉であり、吐き気止めや消炎作用などを期待して漢方処方に配合される。
Eriobotrya japonica Lindley (バラ科)
■解説:伊藤 美千穂先生(京都大学大学院薬学研究科 准教授)
■撮影協力:武田薬品工業株式会社 京都薬用植物園
■写真:近江 哲平[富士精版印刷株式会社]
■デザイン:河野 公広[富士精版印刷株式会社 東京支店]